1月29日に開催された「Holmes使い方体験セミナー」に参加した。
そこでもHolmesの魅力はヒシヒシと伝わってきた。
機能面、インターフェイスのUIなど。ただ、まだ何かありそうな気がした。
はっきりとは分からないが。背景というか、見据えているものというか…。
株式会社Holmes代表取締役CEOの笹原氏に話を聞いた。
本日はよろしくお願いします。
早速ですが、先日のセミナーで創業のきっかけが、「紛争裁判をなくしたい」ということだと伺いました。電子契約システムと「紛争裁判をなくす」とはどのように結びつくのでしょうか。
株式会社Holmes代表取締役CEO笹原氏(以下、Holmes笹原氏):よろしくお願いします。
そうですね、まず「電子契約」という言葉でくくってしまうと少しずれてきてしまうので、構造のようなものを説明させていただきます。
我々が提供する『Holmes』というサービスは、「電子契約」とは軸が異なると思っています。
一般的に言われる「電子契約」というのは、製本作業や印紙代のコストを削減することを目的とした文脈で認識されることが多いかと思います。
一方で、『Holmes』はそのような「効率化」という側面ではなく、“最適な契約オペレーションを構築する”という目的のもと、サービスを提供しています。
Contents
事業における「契約の流れ」を最適な形で推進
Holmes笹原氏:一つの事業というものは、営業→契約→納品→請求→契約完了…という一連の流れがあり、この一つ一つは契約で成り立っています。
例えば不動産事業に置き換えた場合、貸主と借主の賃貸借契約があって、清掃業者さんとの契約もあって、さらにソファーなどを入れようと思えば家具屋さんとの売買契約などがあったり…と、様々な契約が折り重なって一つの事業が成り立っていますよね。
さらに、その一つの契約は、様々な契約書が、社内における作成/承認/締結/管理というフローを踏んで取り交わされることにより成り立ちます。
つまり、「契約書」の束が「契約」になり、その「契約」の集合体が「事業」だと考えた時に、電子契約の役割である「締結(サイニング)」などといった契約書の一プロセスは、実はほんの一部の事にすぎないのですよね。
一方で『Holmes』は、契約書の作成から承認/締結/管理までの全てのプロセスが実現できることが前提なので、単なる「契約書」ではなく、事業におけるすべての「契約の流れ」を最適な形で推進していくことができます。
その様な観点のもと、我々は企業にとって必要なあらゆる契約の基盤を作っていこうという考えで『Holmes』を提供しています。
「紙文化をなくす」変革ではなく、「契約文化を作る」という本質の追及
前回のセミナーでも「プラットフォーム」というキーワードが出ましたね。
Holmes笹原氏:そうですね。我々は「紙文化をなくす」という方向性ではなく、「契約文化を作っていく」という本質の追及を目指しているので、そういう表現の仕方になります。
『Holmes』は紙の契約にも対応していますが、これも「電子契約」という言葉にくくらない理由の一つです。
本質的に紙の契約が悪いということではないのです。
なぜなら、中には紙の契約を捨てきれない文化をもつ企業もありますし、場合によっては紙の契約の方がいいというケースもあるからです。
そもそも契約というものは相手方あってのものなので、相手方が紙の契約でなければダメだとなれば、電子契約と紙の契約が別々のシステムで併存してしまうということも起きてきます。つまり、企業それぞれで最適な契約フローというのが異なるはずなので、それぞれに合わせて提供しようというのが『Holmes』の基本的な考え方なのです。
適切な契約フローの構築こそが紛争裁判撲滅のカギ
Holmes笹原氏:僕が弁護士だった頃に紛争裁判を多く経験していく中で、「契約が適切だったらそもそもこの紛争裁判は起きなかっただろうな」と思うことが多くございました。紛争裁判の争点の多くは契約についてなので。
それは契約内容の「認識の違い」という意味でしょうか。
Holmes笹原氏:認識の違いもありますが、そもそも契約書が適切に管理されていなかったり、内容を把握していないことで納期が遅れ、契約違反になったというケースも多いですね。
中には「うちは契約書を電子化しているので問題ないです」という企業もいます。
しかし、その様な企業でも、例えばPDFファイルがDropBoxの中にWordのドラフトと一緒くたにされている状況もあるわけです。それは、ちゃんと管理・整理されているとは言い難い状況でしょう。
特に、大企業になればなるほど、単純に契約の数が多いです。
契約が多いということは契約書の数も比例して多くなります。その分、当然管理すべき契約書は増え、紛争裁判のリスクも高まるということになります。
しかし、適切な契約書が簡単に作成/承認/締結/管理できて、その情報が常に関係者に共有されるフローを作ることができれば、自然に紛争裁判はなくなると思います。だからこそ、最適な契約フローを構築するシステムは必要なのですよね。
「締結」だけでは、企業の「不」は根本的に解決できない
Holmes笹原氏:その他の事例として、「そもそも契約書を結んでいない」ということもよくあります。契約書を結んでいないことで、100万円の約束で仕事を引き受けたのにクオリティが低いから30万円と言われたなど、「こんなはずじゃなかった」「言った・言わない」の紛争になる。
実はそういうことが発端となった裁判は沢山あります。
契約書が無い原因とは何かというと、「面倒だからいいや」という場合もあるでしょうし、「そもそもどういう契約書を結んだらいいか分からない」ということもあるでしょう。
例えば、住宅の賃貸の場合、仮申込書があり、審査があり、審査が通ったら賃貸借契約を結ぶというフローがあります。
それと同時に火災保険の申し込みや、家賃保証の契約書などもあります。それが完了したら、鍵の受け渡しの受領証のサインなども要します。契約終了時には、契約終了の確認や、敷金礼金の清算の確認もします。
こんなに多くの契約業務が発生するとなると、どれか一つを担当者が忘れていて、結んでいなかったということで紛争になる、という状況も起こり得ます。
そう考えると、電子契約でいうところの「締結」だけでは、鍵の次に受領書が必要だということを営業担当者が忘れてしまっていたら受領書をもらうことはできないので、企業の「不」は根本的に解決できません。
その意味でも、作成から管理まで対応するHolmesは重要なのです。
人と書類に紐付く情報を、しっかり受け止める
Holmes笹原氏:大体の場合、契約書とはどこかのフォルダにまとめて入っている場合が多いので、「契約書の情報」と、「それまでの商談に関する情報」は基本的に分離され、契約書作成までの経緯ってわからない場合が多いのですよね。
社内の承認フェーズにおいても同様のことが言えます。
営業担当が法務へ契約書チェックを依頼する際、法務担当者はその事業構築に直接関わっているわけではないので、契約書だけ渡されても全体像はわかりません。だからといって、プロジェクトの経緯や、この契約書が必要な理由を一から説明するのは大きな負担です。
しかし、『Holmes』があると、これらの問題が解決できます。
契約作成フェーズにおいては、作成途中の進捗を確認できるだけでなく、その契約書に対してどのようなタスクが発生しているか、そもそもなぜこの契約書を作っているのかなどをコメントを通して共有できるようになっています。
さらに、承認フェーズにおいても、法務はこれまでのコメントを確認するだけでいつでも情報を遡れたり、契約書に関連する書類として議事録が添付されて入ればある程度背景を追うことも出来ます。
つまり、『Holmes』を使うことで、人と書類に紐付く情報をしっかり受け止めることができるようになります。
多いのは、全社もしくは事業・プロジェクト単位での導入パターン
では一部署に導入するというよりも、全社的に導入していくイメージですか?
Holmes笹原氏:その通りです。
一番活用いただけているパターンとしては、全社もしくは事業・プロジェクト単位で導入していただいているパターンです。
法務系の担当者も、営業担当もマネージャーもそれぞれアカウントを持って、情報が一元で見える化できるようになっているので、「○○社さんの契約書返ってきてないけど大丈夫?」などのようなやり取りができます。
他社の電子サービスでは、ミニマムで導入してみようという意見もありますが。
Holmes笹原氏:『Holmes』の場合は、そのあたりの考え方は全く違いますね。
他社の電子契約システムは一通の契約書の電子化を解決するシステムになっていることが多いのですが、『Holmes』は複数の契約書を含む一連の「契約フロー」「事業フロー」での捉え方になるので。
先程も少し触れました通り、我々は電子契約システムとは解決しようとしている課題が違うのです。
我々は、紛争裁判をなくすために、企業にとっての最適なフローというものを、契約の仕組みを簡単にすることを通して導入していこうという考えです。
それに対して他社様の電子契約サービスは、印紙代や時間を削減しようという点に課題解決のポイントを置いています。どちらが良いとかではなく、我々とは設定している課題が違うということです。
まとめると、時間もかからず、製本の手間もなく、印紙代削減できたら最高ですねというのが一般的な電子契約サービスで、契約の電子化という縦の流れと、事業全体の横の流れの両方を、効率的なシステムと最適なフローをもって解決しようとしているのが『Holmes』なのです。
『Holmes』の導入までのリードタイムや料金体系について
基幹システムに近いイメージですね。
Holmes笹原氏:そうですね。
そうなると導入までの意思決定には時間がかかりますね。
Holmes笹原氏:確かに時間はかかりますね…
とはいえ、最近は企業側のシステムへの理解も素晴らしく早くなりつつありますし、事業部単位での導入の場合ですと格段に早くなってきました。
100人以下の企業だと1~2週間で決まることもあります。
すぐ導入したいというお問い合わせもいただいています。
料金的にはどのような体系ですか?
Holmes笹原氏:『Holmes』はアカウント制なので何人で使うかで変わります。
1アカウント5,180円で、6アカウント以上からになります。
1アカウントや2アカウントだけで使っていても『Holmes』のメリットは出せないので、6アカウント以上にさせていただいています。あとは、電子契約1通50円など、オプション料金をいただいています。
『Holmes』のメリットを最大限に活用いただくために、しっかり全部署導入いただいて、一人一人がアカウントを持っていただき、最適なフローを構築することで、事業部や企業としての売り上げも上がり、経費も削減も出来るようになるようなカスタマーサクセスを目指しています。
“デジタルワークスペース”の様な契約基盤でありたい
『Holmes』を一言で表現すると?
Holmes笹原氏:今は「クラウド契約システム」という表現でまとめています。
他方で、イメージを表現する際には「デジタルワークスペース」という言い方をしています。
この意味合いとしては、みんなが一緒に作業する、人と情報の共同作業場を提供して最適な契約フローを構築する契約基盤でありたいという気持ちが込められています。
『Holmes』は複数部署に分かれる大規模組織に特に有効
Holmes笹原氏:『Holmes』は、少なくとも20~30人、基本的には100人以上の従業員を有する大規模な組織に活用していただきやすいと思います。
理由としては、それくらいの人数になると、管理・営業・開発部門などに組織が分かれ、「あの契約書どうなっていたっけ?」のようなコミュニケーションギャップが生まれやすくなるためです。
実際に、『Holmes』ならではの強みを特に実感していただいているのは、この様な大規模組織を有する企業が圧倒的に多いです。
『Holmes』だからこそ活躍できる領域
問い合わせは増えていますか?
Holmes笹原氏:おかげさまで上場企業や伝統的な企業を中心に、日々お問い合わせをいただくことが多くなっています。
背景として、契約書の基幹システムというものを導入出来ているところがなく、企業側としてもその部分が急務になっているようです。そのあたりは『Holmes』だからこそ活躍できる領域と考えているので積極的にご提案をお受けしています。
課題感と技術力で切り拓く『Holmes』という未来
今後この市場はどうなると思いますか?
Holmes笹原氏:電子契約の締結という部分で考えると、市場としては広がる可能性が高い分野だと思います。
しかし、『Holmes』のように企業に最適な契約フローを提供するという部分の市場で考えると、『Holmes』以外のプレイヤーが出てきにくいので、市場の拡大というとどうなのかなと。
なるほど。参入障壁が高いのですね。
Holmes笹原氏:高すぎますね。
技術的にも、法律的な面でも、弁護士にも難しいのです。
この課題感が無いので。契約書のレビューと作成が主な業務なので、企業の契約フローというものには関与していないのですよね。
その課題感に気付いたというのは紛争裁判をなくしたいという思いがあったからなのでしょうか?
Holmes笹原氏:そうです。
『Holmes』の役目は、顧客、社会の課題を解決することだと思っています。
本質的なところで行くと、契約って面倒ですし、誰しも極力関わりたくないと思うのです。
契約が電子締結になり、紙の郵送がメールや電子に変わり、製本がいらなくなっても、契約の煩雑さは根本的には解消されないなと思ったのです、電子締結だけでは。
面倒くさい・複雑・関わりたくないという顧客の課題の本質と向き合い続けた結果、現状では、契約フロー全体の構造自体が煩雑・複雑だということが真の課題なのだろうなと気づいたのです。
だからこそ、紛争が起きてしまうのだろうなと思ったわけです。
今後も、新たな機能などを追加していくのでしょうか
Holmes笹原氏:はい。『Holmes』はものすごいスピードで機能追加やアップデートをしていっています。
後々は、まったく違ったプロダクトも出していくかと思いますので、ぜひ今後の弊社にもご期待ください!
昨年の暮れに、5.2億円調達のニュースが飛び交った『Holmes』。
設立わずか1年あまりでのこの調達力は、やはり伊達ではない。
インタビューの間も何度か出てきた「課題感」というキーワードからも、視点の違いと熱い想いもヒシヒシと伝わってきた。
ひいてはそれが他社サービスとの差別化を生み、独自のポジションを築いているのだろう。
今後リリースされる機能や、今後の展開でそれがより鮮明になっていくと期待せざるを得ない。今後も『Holmes』の動向を注視していきたいと思う。
取材協力:
株式会社Holmes
代表取締役CEO
笹原 健太 様