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電子契約等のクラウドサービス普及の鍵は信頼性【JCANトラステッド・サービス登録】

「JCANトラステッド・サービス登録」という制度が2018年にできた。正直、これはまだあまり一般的には知られていないだろう。

では、「プライバシーマーク」や「ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム適合性評価制度)」はどうだろう。Webサービスなどを手掛ける会社にいる方であれば、このあたりは、かなりの方が耳にしている、もしくはよく知っているレベルだと思う。

「プライバシーマーク」や「ISMS」を手掛けるのが一般財団法人日本情報経済社会推進協会(以下、JIPDEC)だ。JIPDECが時代の流れに先立ち新たに立ち上げた制度が、この「JCANトラステッド・サービス登録」だ。では、これはどのような制度であるのか。

JIPDECのホームページ上では、

近年、クラウドを活用した電子契約サービスが急速に普及しており、クラウドサービス自体の信頼性確保が重要となっています。
 しかしながら、多種多様なクラウドサービスが出現する中で、利用者である個人、企業等においては、それらの信頼性に対する情報の不足が顕著となっています。すなわち、クラウドサービスの選択のためのわかりやすい情報の提供が必要となっています。
一般に、クラウドサービスの信頼性は、クラウドサービス事業者(以下、「クラウドサービスプロバイダ」という。)の提供するサービスの品質とクラウドサービスプロバイダのセキュリティ対策の両方が重要です。
JIPDECは、電子契約サービス等のクラウドサービスの信頼性を示すために、ある一定の基準に適合するクラウドサービスを対外的にわかりやすい形で登録する仕組みとして、新たに『JCANトラステッド・サービス登録』事業を開始しました。

出典元:JCANトラステッド・サービス登録

契約書電子化普及のきっかけは住宅ローン!?


「電子契約の専門メディアが立ち上がるなんて!ようやく電子契約もここまで来たかと思うと、うれしいです。」

開口一番、喜びの声をくれたのはJIPDECの大泰司氏。元々メーカーで取引の電子化に携わっていたということで電子契約の歴史についても造詣が深そうだ。

「2013年を電子契約元年と決めてから、毎年元年と言っているので、いつまで元年なんだという気もしますが、サービス提供会社も増え、マーケットとして少しずつ広がりを見せてきているかなという実感はあります。7年ほど前に新日鉄ソリューションズ様(現、新日鉄住金ソリューションズ、以下NSSOLと表記)のグループ内でやりとりする契約書の電子化のお手伝いをしました。

その後、NSSOL様がクラウドサービスとして外販を始められました。それでもまだこの段階では電子契約というものは一定の広がりにとどまっていました。そんな中、2016年に電子契約というものが大きく広がるきっかけがありました。それは日本住宅ローン様が、住宅ローン『フラット35』の契約書を電子化したことでした。

このニュースがニッキン(日本金融通信社)に取り上げられ、その日から各銀行から問い合わせが入り始めました。『何年か前に聞いた例の話だけど、すぐできません?』と。これには本当にびっくりしましたね。」

普及の先に“信頼性”

2016年に住宅ローンの契約書電子化が注目を集めてから、わずか2年でその周辺環境は大きく変わった。電子契約サービス提供会社(プロバイダ)もこの数年増え続けている。このような状況の中でなぜ「JCANトラステッド・サービス登録」というものが出来たのだろうか。

「最初は、『電子契約?なんですかそれ?』みたいな感じだったのですが、ここ数年で新しいサービスもどんどん出てきました。それは非常に良いことなんですが、今度は導入を検討するお客さんが迷うようになってきていて、『どうしたらいいですか?』という相談があるんです。

一方、ベンダー様からはサービス立ち上げのご相談をいただき、事業計画作りのお手伝いもしています。

もともとJIPDECのミッションとして『オンライン完結社会の実現』『取引の電子化』というものがありますから、電子契約の普及に力を入れているんです。
しばらくはサービス事業者がどんどん立ち上がってきて、そこに対して電子証明書を提供するということをやっていました。

サービス事業者の数も増え、各社のサービスの仕様やサービスレベルについても、一定の相場観も分かってきたので、それであればむしろその基準に合致しているかどうかを審査して、そのサービスを登録することにしたらいいんじゃないかということで、このJCANトラステッド・サービス登録というものを始めました。

ご存じないかもしれませんが、実は電子契約というもの自体は20年くらい前からあったんですよ。当時は手元のクライアント端末でPDFファイルに電子署名をして、それを相手側に送って、相手も同じことをして、なんてことをやっていました。当時、私はメーカーにいて、PDFに電子署名をするソフトウェアや電子証明書を売ってましたが、まさかこんなに時間がかかるとは思いませんでした。

ここ数年は、すべてクラウドサービス側に電子証明書(紙の世界ではハンコ)を預けてしまって、電子署名(紙の世界では押印)までしてしまうということがほとんどになってきました。これによって何が良いかというと、ユーザーはWebブラウザ環境さえあれば、ややこしい操作から解放されて、クラウドサービスにアクセスして、クリック、クリックで契約を進められるようになったわけです。そうなった時に、次に問題になってくるのが、そのクラウドサービス自体の信頼性ということになります。信頼に値する環境なのだろうかと。

特に自分のハンコまで預けるわけですから、どんなハンコ、つまりどんな電子証明書を使うかということも大事ですが、そのハンコを預けて、きちっと管理されているかどうか、ここを見ないといけませんね。どんなに立派なハンコであってもクラウドサービス側でずさんに扱われていたら意味がないわけです。JIPDECとしても認証局だけではなくて、それを扱うクラウドの電子契約サービスの方も見なければいけないなと。そのような目的で『JCANトラステッド・サービス登録(電子契約)』のような登録制度ができたんです」

実は日本が電子契約先進国!?

「これは、世界的な流れでもあるんです。クラウド上で署名することをリモート署名とも言います。日本でも当初は「そんなことやっていいのか」などと言われていました。
そんな中でも実際に始めてみたら、とても便利で次々に広まってきました。どうやら欧米もその方向性であると聞いています。ヨーロッパでの基準も出来てきているようなので、今後はそこと整合性をとっていく必要もあるかなと思っています。
電子署名というと、ヨーロッパが本場のように言う方もいらっしゃいますが、実は日本の方がすでに現場では使われていたりします。ヨーロッパはEU主導できっちりした枠組みを作っているので、先進的なイメージがあるようですね。意外なことに外資系企業の方は、欧米のほうが紙が多くて大変とおっしゃってました」

欧米もまだまだ紙社会とは、これこそ普及していないイメージではないだろうか。では世界的にみても先頭を走る日本の制度では、審査はどのように進められていくのだろうか。

「ISMSを参考にして審査のやり方を考えたのですが、大きくは具体的なサービス単位で行うところが特徴です。
ISMSの場合は自社で事業の範囲を決めて、リスクを自ら洗い出して分析して、それに則った管理策を自ら作るものなのですが、『JCANトラステッド・サービス登録』に関しては、この電子契約サービスにはこういう具体的な対策が必要で、これをやっていますかどうですかという具体的なレベルのことをやります。どういうデータセンターを使っているかということで、そのデータセンターに立ち入りします。入退室の管理やIDの管理はどうなっているかなどです」

審査に要する期間も訪ねてみた。

「申請していただいて、登録完了となるまでは大体3か月ほどです。
重要な点は、秘密鍵をどう管理しているかという点ですね。
電子証明書発行の部分については「JCANトラステッド・サービス登録(認証局)」のところで見ますが、「JCANトラステッド・サービス登録(電子契約)」のほうでは、その発行された電子証明書をどう扱っているか、どんなふうに電子署名をしているか、電子署名をした文書をどう管理しているかというところを見ます。
この「JCANトラステッド・サービス登録」の仕組みの第一号は、みずほ銀行様が法人融資用に自ら認証局を構築した際に、第三者監査があった方がいいだろうということでご採用いただいたものです。
今現在、この「JCANトラステッド・サービス登録」へは、GMOクラウド様、サイバートラスト様はじめ数社申請をいただいているところです」

真の目的は“取引き革命による働き方改革”

「先にも話しましたが、NSSOL様の契約書の電子化のお手伝いもさせていただきました。
自社が締結している請負契約の印紙代がもったいないというところから取り組みが始まりました。他のお客さんもBtoBの購買側からお声掛けして、電子契約をやろうというケースが多いようです。そのきっかけがやはり印紙代がもったいないということ。
でも実際は、印紙代以上に取引のスピードアップと業務効率化の効果が大きいようです。
あとメリットとして挙がるのはコンプライアンスの面です。
現場でどんな契約しているかを把握できるというのが、法務部門の方に非常に喜ばれます。
全国展開しているような大きな会社様だと、支店で何をやっているか分からないことも多いようなのですが、これがクラウドサービスの中で、一元的に契約のやりとりまで本社から見えるというのが喜ばれています。
これ以外にも、まだまだわれわれにも把握できていないニーズが多くあると思います。
いろいろな業界を見渡しても、紙でなければいけないという制度は、実はほとんどないんです。ただ、本当にいいんだっけ?というような状態で留まってしまっている業界が多いように思います。
紙の取り扱いをしないということだけでも、すごい効率化が出来るんですが、電子化さえすればいいのか、そもそも必要な情報だったのか、無駄な業務だったのではないか、ということを振り返ることが重要だと思います。私も長年、営業やコンサルティングをやってきて身にしみているんですが、社内用、社外用に日々色々な資料を作ります。本当はどこかに置いておけば簡単に共有できて効率化できるものは多いはずです。そんな仕組みをみんなで作っていきたいですね。
電子化の流れと同時に、電子化したあと、その取引自体も効率化する。
それを「取引革命」と呼んでいます。
今年度の市場のキーワードとして、「働き方改革」があると思いますが、実はこれは社内だけではできないと思うんです。
社内においては、例えば社長が号令をかければ働き方改革はできるのかも知れない。
でも例えば、取引先から言われると対応しなければいけない時もあり、営業現場はなかなか環境が変わらないというところも実情だと思います。
取引先も含めた、「取引関係の効率化による働き方改革」というのが、いまの社内の働き方改革の次に必要かなと思っています。
そのためにはまだまだ整備しなければいけないことも多いですが、すでに取り掛かっています」

今回取材した「JCANトラステッド・サービス登録」、単純な登録サービスかと思ってしまっていたが、実はその2歩も3歩も先を見越した環境整備の足掛かりとしての役割も担う非常に重要な制度だったようだ。

電子契約サービスの基準値を示してくれるものになりつつも、その先に広がるサービスの一定基準も満たす称号になる日もそう遠くないように思う。

取材協力:
一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)
インターネットトラストセンター
企画室長 大泰司 章 様