電子契約のあれこれ

『契約』と『契約書』と、時々『ハンコ』

2020年4月1日、制定後約120年ぶりに改正民法が施行となる。
今回の民法改正によって、民法で定められている『契約』というものも多少の影響はあるようだ。
Paperless Gateでは、これまで『電子契約』や各社の『電子契約サービス』について、様々取り上げてきたが、民法改正となるいまだからこそ、そもそもの『契約』や『契約書』、そして『ハンコ』というものを改めて整理しておきたいと思う。


“契約”とは

<旧民法(~2020年3月)>

(隔地者間の契約の成立時期)
第五百二十六条 隔地者間の契約は、承諾の通知を発した時に成立する。
2 申込者の意思表示又は取引上の慣習により承諾の通知を必要としない場合には、契約は、承諾の意思表示と認めるべき事実があった時に成立する。

改正民法(2020年4月~)

(契約の成立と方式)
第522条
1. 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。
2.契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。


『契約』というものに関して、民法で定義されており、今回の民法の改正においても改定の対象となっている。
旧法と改正法を見比べると、成立の時期が若干異なっているようだ。
そして諾成主義の原則、つまり意思表示によって契約が成立するという法の解釈が、改正民法においては法律として明文化された。
双方の意思表示があれば、形式を問わず契約が成立するというものだ。
ご存知の通り、“口約束”でも契約は成立するのだ。法律上は。

2020年4月からの改正民法によると、『契約』というものは、AさんがBさんに対して契約締結の申し込みをし、Bさんが承諾した時に成立するもので、法令に定めが無ければ形式は問わないとはっきりと定義された。


“契約書”とは

『契約』が、双方の意思表示で成立する“行為”であるということは分かった。
では『契約書』というものは、そもそもどういう性質のものなのだろうか。


契約書とは、その2個以上の意思表示の合致の事実を証明する目的で作成される文書をいう

参照:契約書の意義|国税庁


契約が口約束でも成立するという事は先に申し上げた通りだが、口約束だった場合、何か一方にとって不都合や問題が起きた時に、言った言わないの水掛け論になってしまうことは容易に想像できるだろう。
そんな時に口約束した内容を文書などで明記し、双方でその内容を確認し合っておけば、言った言わないという事を防げたのではないだろうか。
ここで言う文書というものが、『契約 “書” 』になるのだ。
そして、不都合や問題について争いを裁判と言えるだろう。
つまり、『契約書』というのは、裁判の時に役に立つ“証拠”になるモノと言うことが出来るのではないだろうか。
そして、「役に立つため」の要件がある。

下記は、民事訴訟法第228条の条文である。

(文書の成立)

第二百二十八条 文書は、その成立が真正であることを証明しなければならない。
2 文書は、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認めるべきときは、真正に成立した公文書と推定する。
3 公文書の成立の真否について疑いがあるときは、裁判所は、職権で、当該官庁又は公署に照会をすることができる。
4 私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。
5 第二項及び第三項の規定は、外国の官庁又は公署の作成に係るものと認めるべき文書について準用する。


つまり、裁判において契約書が証拠として効力を発揮するためには、その契約書が契約者本人によって作成されたもので、改ざんされていないものである必要があると規定されている。
それはそうだ。
契約内容が、あとからから好きなように書き換えが出来てしまうようでは、たまったものではない。
改ざんが出来ない、という事が重要であるという事がよく分かる。

そして、企業間の契約などで使われる契約書などは「私文書」に分類されるので、第4条の「私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。」が当てはまる。
署名かハンコがあれば、正しく成立した契約書であると推定されるというのだ。
そして、この民事訴訟法第228条第4項の「押印」の記載こそが、今の日本に根強く横たわる「ハンコ文化」の根源なのである。



“ハンコ”とは

みんなが“ハンコ”が好きな理由はなんとなく分かった。
だが、ここで一つ疑問が出て来る。
文書を偽造ではなく真正なものと証明するものが『ハンコ』だとして、その『ハンコ』が正しいものだという証拠はどこから来るのだろう、どう証明するのだろうか。

ここでもう一度整理しよう。
民事訴訟法第228条第4項によると、そもそも『ハンコ』は、契約書などの私文書が、契約者本人によって作成されたものであることを推定させるためのツールである。
それはつまり、契約者本人の意思であるという事を証明するモノが『ハンコ』。
ということは、その『ハンコ』が契約者本人のモノであるという証明が出来るものがあればOKということになる。

それを証明するための制度が、実はある。
ここで、少し耳慣れたキーワードが連想できないだろうか。
『印鑑登録証明書』『印鑑証明書』。
『印鑑』と『証明書』、『印鑑』を『証明』するもの。
そう、この『印鑑登録証明書』と『印鑑証明書』というものこそが、『ハンコ』を本人のものであるとことを証明してくれる証拠力となるのだ。

個人でも経験があると思うが、市役所などで実印登録するとその印影と個人情報が紐づけられ行政のシステムに登録される。
そして、「印鑑カード」なるものをもらうだろう。そして、その「印鑑カード」によって『印鑑登録証明書』を発行することが出来るようになる。

また、会社を作る際というのは、法務局で法人登録をする。その時に、会社の実印登録を行う。
そうすると、ここでも「印鑑カード」が発行される。ただ、先ほどの個人の場合と異なるのは、法人の場合、市役所や区役所などではなく法務局への登録となる。

なお、個人の場合は『印鑑登録証明書』で、法人の場合は『印鑑証明書』という名称の違いがあることもマメ知識として持っておきたい。
個人は市区町村、法人は法務局と届け先は違うが、どちらも大きくは国の機関と捉えれば、登録をした『ハンコ』は、国が証明してくれる『ハンコ』と言うことが出来る。
これが「実印」と言われるものだ。

ここで『ハンコ』の種類について整理しておこう。

ゴム印

ゴムで作られたハンコの事で、シャチハタなどもここに分類される。
用途としては、手書きのサインの代わりに使うような場面が多いように思う。
型に流し込んで作られるため、全く同じ形のものが多く流通していること、弾力性があり押す強さによって印影が変わってしまうことなどの理由から、信用性は一番低いと言える。
※なお、「シャチハタ」は会社名であり、特殊なゴム素材を使用しインクを浸透させることから、あのようなハンコの名称としては、正確には「浸透印」と言うらしい。


認印

ゴム印ではないハンコで、実印や銀行印のように登録されていないハンコの事。
プラスチックや木などの堅い素材で出来ていて、その素材を彫って作られたものである。
彫ったものなので、朱肉を使用する『ハンコ』とも言える。
いわゆる三文判と呼ばれるものもここに分類される。

三文判とは、“安価な”ハンコという意味であり、100円ショップなどで売られているハンコは、まさに三文判だ。
だが、それを実印登録すれば、立派な実印となる。
従って認印とは、「朱肉を使う印鑑で、実印登録されていないもの」と言うことが出来る。
ただ、安価なものは機械で作るため、結局同じような印鑑が多数流通するのであまり信用性は高いとは言えないだろう。
なお、役割り的には、法人の角印や担当印もここに分類される。


実印

実印登録されたものを実印と言うことは、先に説明した通り。
法人の場合は、登録印と言われることも多い。
そして、印鑑登録証明書もしくは印鑑証明書と実印とのセットは最も信用性の高い『ハンコ』と言えるだろう。
ここで注意したいのは、「セットは」ということだ。
印鑑証明書が無ければ、実印で押印してあっても信用性は認印と同じという事になってしまうことは認識しておきたい。


まとめ

ここまで『契約』、『契約書』、『ハンコ』についてそれぞれの定義と根拠を見てきた。

『契約』とは

一方が契約締結の申し込みをし、もう一方が承諾した時に成立する法律行為。

『契約書』とは

契約内容を記載し、契約者本人同士がその内容について真正であることを証明するために、双方の署名もしくは捺印された文書。

『ハンコ』とは

契約者本人の意思であるという事を証明するための道具であり、その道具が真に本人のものであるという事を「印鑑登録証明書」や「印鑑証明書」で証明する。


だがここで、電子契約の情報をお届けしてきたPaperless Gateとしては気になる点が出て来る。
『契約』という行為や『契約書』という文書の役割については理解できた。
『契約書』が契約内容を記した文書であると明記されている点において、電子契約の場合は紙ではなくデータ(電磁的記録)である。
実はその点においては、「電子署名法」によって回答を導くことができ、各社もそれに基づいたサービス設計になっている。
では、電子契約における『ハンコ』の機能にあたる、個人や法人など契約者本人であるという事は、どのように証明されているのだろうか。

各社のサービスによって、この点の解釈や設計が異なるようであれば、電子契約サービスを導入検討する際の重要な要素になりそうだ。 この点においては別の機会にまとめていきたいと思う。

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